第90章 どうしても聞いてもらいたい話
「これは、ボクの勝手な憶測だけど。もしかしたら龍は、罪悪感に耐えられなくなってるのかもしれない」
『楽に対して、後ろめたい気持ちがある。と?』
「うん。キミの秘密を守る為、一度は楽に隠し通すって決めたものの。抱える事の大きさに、押し潰されそうになってるんじゃないかな」
『そう、ですよね。龍は元々、仲間に内緒事を貫き通せる器用な人じゃない。
なんだか、改めて申し訳ないですね。私みたいな面倒な相手を、選んでしまったばっかりに…』
もしも彼が、普通の女性を選んでいたら。なんの罪悪感も抱かずに、天と楽に、胸を張って報告したのだろう。
俺に、大切な人が出来たよ!と。屈託のない、あの眩しい笑顔を浮かべて。
「勝手に龍を不幸な人にしないであげて」
『…天』
「龍は、間違いなく幸せ者だよ。キミの隣にいられるんだから。それはボクが保証する。
だから…そんなふうに、悲しい顔 しないで」
悲痛な面持ちで、私を見つめる天。本気で心配してくれているのだと、伝わってくる。
『ありがとう。天。貴方は、本当に優しい、良い子ですね』
「良い子。は やめてくれない?」
言って、彼は拗ねた子供みたいな表情を浮かべた。私達は、顔を見合わせてクスクスと声を抑えて笑う。
「すぐに解決したいと思うなら、3人で話してもいいけど」
『ありがたいですが、もう少し自分で考えてみます。龍が1人で何かを抱えて辛い思いをしているのなら、それを取り除くのは、やっぱり私の役目だと思うから』
「…本当に、キミに愛される龍が羨ましいよ」
『え?私は天の事も愛してますよ』
「ふふ。それは光栄だね」
私達は、どちらからともなく楽屋へと足を向けるのだった。