第89章 年季が違うからね
「ま、まぁそれに、あれだ。お前に恩を売っとくのも、悪くないと思ったんだよ」
私は、言葉を失った。ただただ、そう言い放った男の顔を凝視する。彼はバツが悪そうに、視線を逸らして頭を掻いた。
そして天をはじめ楽と龍之介は、笑顔で私を見つめる。その顔は、良かったな と語り掛けているみたいだった。
まだ声を出せずにいる私に、更なる幸運が舞い込むこととなる。懐の携帯が鳴ったのだ。4人に断りを入れ、通話ボタンを押す。
『もしもし。八乙女プロダクション、中崎です』
《 春人くん?突然ごめんね、いま電話大丈夫? 》
『はい、勿論です』
相手は、以前一緒に仕事をした事がある番組プロデューサーだった。
《 今度、また音楽番組を担当させてもらう事になってさ。ゲストでTRIGGERに出て欲しいって話が持ち上がったんだ。
まぁ今回は全国放送じゃないから、無理にお願いするわけじゃないんだけど 》
『い、いえ!喜んでお受けいたします!あの、ですが…』
《 はは。いいっていいって。皆まで言わなくて。大変な時はお互い様だ。幸い僕は、ツクモに甘い汁吸わせてもらった事なんて一度もないし?
まぁ、君に貸し1ってことで!》
後日、詳しい打ち合わせをすると約束をした上で電話を切る。すると、龍之介が嬉しそうに私に言う。
「良い話だったみたいだね?」
『は、はい。怖いくらいに』
「キミがもし、過去TRIGGERに触れてくれた人達との縁を大切にしないような人間だったら、こうはいかなかったんじゃない?
これで分かったでしょ。
今までのキミは、何も間違ってなんかなかったんだよ」
『……ふふ。皆んな、揃いも揃って、私に対して恩を売るだの貸しを作るだの。好き勝手に言ってくれて。
いいでしょう!この際、買えるものは全て買い、借りれるもの全部借り入れてやりますよ!』
「あはは!良かった。春人くんが復活した」
「なんだ?春人の奴、落ちてたのか?」
「ははっ。まぁ、色々とあったんすよ」
私は、4人に告げる。
『あぁ…すみません。少しだけ、あっち向いててもらえます?ちょっとだけ…目から、水が、出そうなんで』
「ふふ。落ち込んだり立ち直ったり感動したり。キミは随分と忙しいね」
4人は笑顔のまま、私に背を向けてくれるのだった。