第89章 年季が違うからね
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『疲弊してるとかじゃないんです。それに、もう4人で答えを出したので悩んでもない。ただ私、多分ですけど…
落ち込んでるんです』
なんだかいつもと様子が違う。彼らにそう指摘された私は、椅子に座り心情を語る。
「どうしてキミが落ち込む必要が?」
「そうだぜ。こんな事になってんのは、ツクモが引き抜きとか圧力とか卑怯な手を使って、俺達をハメたからだろ。根も葉もないデマまで流しやがって」
「そうだよ。春人くんは、何も悪くないじゃないか」
本当にそうでしょうか。と、彼らに問う。そして、昨夜ずっと考えていた内容を口にする。
『私は今まで、TRIGGERの為に尽力してきたつもりです。仕事を取って来る際は、より世間への影響力が強い方。人を見れば、自分にとって有用か否かを無意識で考える。そうすることが、最良であると信じてやって来ました。
ですが効率を重視するあまり、私は大切なものを見落としていたのかもしれないと。今回の件で気付かされました』
3人は黙って、私の言葉に耳を傾けてくれていた。うつ向けていた顔をぐっと上げて、彼らの目を見て続ける。
『この業界で生きていく為には欠かせない、大切なもの。それは “ 御縁 ” です。私がもっと、周りと強固な縁を結べていたなら…TRIGGERは、ここまで一気に仕事を失う事はなかったかもしれない。
ツクモに脅されながらも、仕事をくれる人達がいたかもしれません。大企業や権力者だけをパートナーに選んで来た、ツケが回って来たのかも。
…と、自分の立ち回りがまずかったのかもしれない。なんて、自信を喪失していたというわけです』
ひとしきり話を聞いてくれた3人は、それでも私を責める事はしなかった。
「要は、義理人情を大切にって話だろ?俺は、あんたがそういうもんをないがしろにしてたとは思わないけどな」
「俺もそう思うな。縁を大切にしていたからこそ、TRIGGERといっしょの構成作家さんみたいに、俺達と一緒に戦いたいって言ってくれる人もいたんだと思う」
「…今までのキミのやり方を反省するには、時期尚早だと思うけど」
意味有りげな、天の言葉。詳しい説明を求めようとしたちょうどその時、レッスン室の扉が開いた。
その来訪者を見て、天は薄く笑ったのだった。