第11章 本当に…ありがとう
「…………」
私の説明を受けても、呆然と立ち尽くして 一向に口を開かない龍之介。
『…貴方には、辛い思いをさせましたね。でもこれで、もう誰に後ろ指を指されたり 謂れの無い中傷を受ける事もありませんから』
これだけ言っても、まだ固まったままの龍之介の事がさすがに心配になってくる。
『十さん?』
私は席を立って、ゆっくりと龍之介の方へと歩み寄る。
『大丈夫で』
ガバ!っと、その逞しい胸板に突然閉じ込められてしまった。
『!?』
「ありがとう春人くん!本当に…ありがとう」
きっと、彼にとっては軽いハグのつもりなのだろうが。私は正直言ってテンパっていた。
だって…。龍之介は、私の事を同性だと思っているが。私は異性だと分かっているのだ。
「俺の為に、もの凄く頑張ってくれて…!ありがとう」
こんなふうに強くギュッと抱き締められてしまっては、嫌でも心臓が高鳴る。
龍之介の硬い胸板。香るフルーティなフレグランス。しっかりと背中に回された長い腕。ごく近い距離から放たれている甘い声。
多分いま私が顔を上げれば、すぐそこに龍之介の整った男らしい顔があるのだろう…。
「うわ!お前ら…何やってんだ。男同士で気持ち悪ぃな」
「…卑猥」
いつの間にか、天と楽も部屋に入って来ていた。そんな事にも気付かなかったなんて。私はどれだけテンパっていたんだ。
「あ、2人ともおかえり。聞いてくれ!春人くんが…」
龍之介は、パっと私を解放すると。私がさきほど彼にした説明と同じ内容を、2人にも話すのだった。
私の背中にはまだ、彼の腕の感触がしっかりと残っていた。