第89章 年季が違うからね
翌日。私は朝一で社長室に赴いた。勿論、了とのやり取りを報告する為である。
八乙女プロを排除しようと動いていたのは、ツクモで間違いはなかったこと。その動きは、おそらく今後はもっと加速するであろうこと。
しかし、ある1点だけは事実を捻じ曲げて伝えた。了が交渉材料に、私を指定して来たことだ。先方は、まだ欲しい物を検討中と。社長には嘘を吐いた。
了がそれを決めた時、私に連絡が入る。その時に改めて交渉をしようと言われた。そう付け加えたのだった。
それまでは、嫌がらせに耐えろということか!と。社長と姉鷺は怒り心頭。その様子を見て、心が痛んだ。
これで、私は “ また ” 契約違反を犯したことになる。だが、後悔はしていない。4人で決めた答えを貫いたことも。龍之介と恋人になったことも。
最終的には、全てをハッピーエンドにしてみせる。そう決意を新たにしたのだった。
「中崎プロデューサーに、お客様が見えています」
そう内線が入ったのは、ちょうど仕事部屋へ帰り着いたタイミングだった。
すぐにロビーへと向かう。そこには、私の心を ほっと落ち着けてくれる人物が立っていた。
『万理…どうしてここに』
「うん、なんていうか。ちょっと心配で。でも、思ったよりも平気そうで良かった」
『そっか。心配かけちゃってたんだ。ごめんね。でも、私達は大丈夫』
「何があったのか、詳しい事は分からないけど…大変だったな」
『うん。まぁ現在進行形で大変なんだけどね』
「だよなぁ。TRIGGERが追いやられるかたちになってから、うちの子達に山ほど仕事が舞い込んだから。これは尋常じゃないって、皆んなも心配してる」
『あぁだよね…IDOLiSH7の皆んなにも、迷惑かけ』
「はい意義ありー。迷惑かけてるって思ってるなら、なんで電話にも出ないのかねぇ」