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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第89章 年季が違うからね




「はぁ。前途多難だね。まぁ、ボクはボクの仕事を全力で全うするだけだけど」

『はい。お願いします。仕事は意地でも、私が取って来ます』

「頼むぜ春人!ほら天、そんな暗い顔すんなって!」

「暗い顔なんてしてない。これが生まれついての顔だよ」

「嘘吐け。白い服にカレー蕎麦飛ばした時みたい顔してたくせに」

「そんな時はない。っていうかカレー蕎麦って何。ボクにその気持ち悪い食べ物を想像させたこと、今すぐ謝って」

「あぁもう2人共、こんな時まで喧嘩しない!ほら見て!雨が上がったみたいだよ!」


龍之介が、外を指差して言った。その言葉を受け、私達は揃って窓に目を向ける。いつの間に、雨雲が去っていたのだろう。話し合いに真剣になっていた為、気付かなかった。

誰からともなく、車外へと出る。楽は、大きく伸びをする。私も、雨に洗われて綺麗になった空気を大きく吸い込む。胸に立ち込めていた霧が、晴れていくのを感じた。

その時、龍之介が元気良く告げる。


「あっ、ほら見て3人とも!虹が出てる!」

「お、なんか縁起良いじゃねぇか。どこだ龍!」

「…虹?夜なのに?」


訝しむように天は呟き、空を仰ぐ。彼の言うように、どれだけ目を凝らしても虹など見つけられない。


「どこだよ。虹」

「違う違う、空じゃなくて。ほら、ここ!」


龍之介が指差したのは、車のフロントライトだった。確かに、虹らしき物はあったのだが…


「「小さい…」」

「た、たしかにちょっと小さいけど、虹は虹だろ!?」

「いや、いくらなんでも…なぁ?」

「手のひらサイズだね」

『ふふ、…あはは!』


大の男が揃って、夜中に可愛らしい虹について議論する光景が可笑しくて。私は堪え切れずに吹き出してしまう。
3人はそんな私へ向き直る。


『はぁ、おかしい…。でも、ありがたいじゃないですか。開戦の景気付けに私達を祝福してくれてるみたいです。今日はレインボー記念日ですね。あ、写真撮ろう』

「ふふ。ボクも」

「まぁ空に架かった手の届かない虹も綺麗だけど、近くで見る虹も悪くないかもな」

「はは!だろう?俺も写真撮ろうっと」


私はこの日、少しだけ雨の日が苦手でなくなった。彼らと一緒なら、どれだけの嵐に見舞われようとも、最後には虹が 架かるのだから。

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