第89章 年季が違うからね
「とにかく。そいつが最低なクソ野郎だってことは分かった」
「うん。許せないよ。君の気持ちも考えないで、無理矢理 表舞台に立たせようとするなんて」
「キミが社長に話す前に、ボク達にこの話をしてくれて良かった。彼が知ればきっと、保身の為にキミをツクモに差し出すだろうから」
「あぁ。あの親父も大概だからな。だから春人。今の条件、奴には話すんじゃ」
『そうですね。社長ならきっと、明日にでも のし付きで私をツクモに贈るでしょうね。そして私も、納得して八乙女プロを出て行く』
しん、と。車内は再び静まり返った。3人は、次の言葉を待っている。私は心を殺し、言葉を並べる。
『何故なら、彼と結んだ契約が、そうだったからです。TRIGGERを上へ押し上げる為、私は捨て駒にでも道化にでもなると。
それに、貴方達には伏せていましたが、私は自分の意志で八乙女プロへ来たわけじゃない。元々は、大切なアイドルが別にいて。その人を守る為に仕方なくTRIGGERのプロデューサーを引き受けました。
これが真実です。貴方達は、この話を知った今でも、私にツクモへ行くなと言いますか?』
今度は、私が3人の言葉を待つ番だ。さっきの天までとはいかないが、出来る限りの微笑みを浮かべて。
そんな、人の努力も知らないで。彼らは呆れ顔で、同じ言葉を口にする。
「お前…馬鹿だろ」
「馬鹿でしょ」
「うーん、馬鹿だねぇ」
まさか、ここまで馬鹿にされるとは思っておらず。私はきょとんとしてしまう。するとリーダー様が、代表して説明をくれた。
「お前がどんな言葉を期待してたのかは知らないが、何回でも言ってやるよ。
俺達は、お前をツクモにくれてやる気は微塵もねぇ」
「わざわざ人を煽るような言葉を並べて。キミなんていらない!って、ボクらが言うと思ったの?
キミが馬鹿なのは勝手だけど、こっちまで馬鹿にするのはやめて」
「はぁ…、少しは頼る事を覚えてくれたと思ったのになぁ。やっぱり、まだまだだったみたい。
ねぇ。もう少し、俺達のことも信じてよ。過去に何があったとか、TRIGGERのプロデューサーになった経緯とか、関係ない。俺達は、君が大好きだよ。だから、側にいて欲しいんだ」