第89章 年季が違うからね
『やはり私達の憶測通り、全てはツクモプロダクション社長。月雲了という男の仕業でした。
彼は、TRIGGERに今後関わらない見返りとして、私を要求しました』
3人の顔が強張る。私は続ける。
『私はツクモの所属となり、彼の元で働き、曲を作り、そして…アイドルとしてデビューする』
「は!?お前が、アイドル!?」
『そうなれば当然 私は、貴方達の元にいる事は出来ません。おそらくは、TRIGGERへの楽曲提供も認めては貰えないでしょう』
深刻な顔をする天と龍之介。2人には、もしかすると了の思惑が見えたのかもしれない。
私が、Lioとして利用されようとしていることに。
楽は、分かりやすく声を上げ驚いた。しかしすぐに落ち着きを取り戻し、私の目を真っ直ぐに見て問う。
「了は、お前の喉の事を知っていて、それでも歌わせようとしてるのか?」
『楽、貴方…!私の、喉の事を知っていたんですか』
「馬鹿にしてんのか。お前と何年一緒にいると思ってんだ。直接 話を聞いた事はなくても、それくらい分かる」
確かに、彼の前で幾度か歌う機会はあった。だがここまで自信を持って言い切れるほどの知見を、彼に与えていたつもりはなかったのだ。だから、これには素直に驚いた。
『さっきの問いの答えは、イエスですね。
了は、喉の故障を美談にして私を売り出すつもりのようです』
「そうか、分かった。だったら答えは、絶対にノーだ。お前はツクモプロに行かせない。絶対にだ」
「喉の事がなくても、絶対に渡さないって言うくせに」
「うるせぇよ。でもその通りだ」
「あはは!だよね。春人くんは、これからもTRIGGERの側にいてくれなくちゃ。俺達も困るよ」