第89章 年季が違うからね
「それで。どうだったの」
『あ、はい。実は…』
額を流れる水滴が、雨水なのか冷や汗なのか。分からなくなっていた。
彼らに相談すると決めたはずだったのに。今更になって、怖気付く。本当にこれで良かったのか。3人には打ち明けず、私が了の元へ行くルートが最適解だったのではないか。そんな考えが頭にちらついて、声が思うように上がって来ない。
そんな、煮え切らない私の顔を。天が両手で、そっと包み込んだ。そして優しく上向かせる。
「顔を上げて。プロデューサー」
『…天 』
「キミは、間違ってないから。ゆっくり話してごらん。ボクらは、ちゃんと聞いてる。
ツクモで、色んな話をして来たんでしょう。そして、それをうちの社長に話す前に、ボク達に話した方が良いと思ってくれたんでしょう。
夜中に電話で起こされても、土砂降りの中呼び出されても。ボクらは、それを嬉しく思うよ」
柔らかい笑顔。そして温かな彼の体温と、耳が溶けるような声。それらが私の凝り固まっていた心を溶かしてゆく。
「以前のキミなら1人で全て抱え込んで、ボク達が知らない間に答えを出してた。
キミ、成長したね」
『ありが、とう ございます』
私は瞳を閉じて。頬に添えられた手に、自分の手を重ねた。
「…うちのセンターは、すげぇ格好良いな」
「うん、本当に。本当に、格好良いよ」
楽は満足そうに微笑み、龍之介は目頭を押さえた。