第89章 年季が違うからね
土砂降りの中で傘も差さず立ち竦んでいては、きっと彼らを驚かせてしまうだろう。そう思い直し、車のトランクにあった折り畳み傘を手にした。
しばらくして、3人は姿を現す。
「春人くん!大丈夫だった?…って!びしょ濡れじゃないか!」
まずは龍之介が、こちらへと駆け寄って来た。そしてハンカチを頭や顔に当ててくれる。
「ねぇ。どうして傘を差してるのに、そんなことになるの」
『あ、えっと…傘を差したのは、ついさっきで…いやそんなことより。えー…お足元の悪い中、しかもこんな夜分に御呼び立てして、申し訳な』
「そんな冠婚葬祭の挨拶みたいのはいいんだよ!ツクモの社長と、話して来たんだろ。どうだった」
『…はい。やはり、今回のことは』
私が口を開くと、ザーーと雨脚はさらに強まる。大粒の水滴が傘に当たる音で、声は掻き消された。
「は?何だって?」
『ですから、ツクモが——を ——』
ドドドド。と、さらに大きな音で、雨は私達の話を邪魔する。
楽は舌打ちをして私の折り畳み傘を奪い、そして強引に自分の傘へと私を入れてしまう。
「もういい!ここで話せ!」
『っ、』
「楽。そこで話を進めろって?ボクと龍を置き去りにするつもり?」
「どこか、雨を凌げる場所まで行こうか。えっと、ここから1番近いのは…」
『あ、それでしたら』
4人で車内へと乗り込んだ直後、楽は雨よりも冷たい目を私に向けた。
「お前なぁ…車で来てんなら、はなから車で待ってろよ」
『考えが及ばずで、申し訳ない』