第89章 年季が違うからね
TRIGGERを奈落へ突き落としたのは了であり、しかし条件次第では、TRIGGERは救われる。了の望みは、私だった。そして彼の提示した条件で、最も重きを置いているのは、私の再デビュー。
こんなかたちで、またステージへ誘われることになろうとは。
伝説のアイドルと自分を重ね合わせるなど、おこがましいと思っている。しかしどうしても、想像してしまう。
ゼロは、どうして表舞台から姿を消したのだろうか。もしかして彼もまた、どこかに不調を抱えていたのだろうか。
私と同じで、歌いたくても、歌えなくなってしまったのだろうか…
ゼロの事を考えているうち、足は彼の聖地。ゼロアリーナが臨める場所まで行き着いていた。
傘を差すのも億劫で、ふらふらと車外へと出る。雨を浴びると、ほんの少し頭の中がスッキリする気がした。
土砂降りの雨の中でも、眩い光を散らしている、ゼロアリーナ。ぼんやりと眺めながら、思考を整える。
私はこれから、どうしたら良いのだろうか。
1人で答えを出すには、この問題は大き過ぎる。なんて。こんなふうに考えてしまう今の私は、かつてより弱くなってしまったのだろうか。
この変遷を、弱化と呼ぶのか。それとも成長と呼ぶのか。
彼らなら…きっと、後者を選び取るに違いない。
私は祈るような気持ちで、懐の携帯電話を取り出した。