第88章 合言葉をはいどうぞ!
重たくなった頭を抱え、座り込んでしまいたいのを堪える。そうしてしばらく歩き、ようやく出口を目視で確認。一刻も早くこの建物から出て行きたい。
が、背後から近付く足音に気付いてしまった。立ち止まり、振り向くと。そこには虎於が立っていた。
「よぉ。外は凄い雨だ。俺が家まで送ってやろうか」
『車で来てますので、お構いなく』
「はは。そう つれない態度を取ってくれるなよ。あんたにとって、有意義な話をしてやれるかもしれないぜ?」
『へぇ。その有意義な話とやらを私に聞かせて下さるのは、貴方がた2人の内のどちらなのでしょう』
私は、虎於の背後から新たにやって来た人物に目を向ける。すると遅れて彼もまた振り返って、背後を見やる。
「なんだ。お前もこいつに用があるのか?巳波」
「えぇ。実は彼女に、どうしても訊いておかなければいけないことがありまして」
『またそれですか。以前もあれだけ歓談したというのに。貴方、私に興味津々ですね』
「あら。その言い回し、最高に不愉快ですね。二度と同じ言葉を並べないでもらえます?」
「…なんだ。俺の知らないところで、2人は随分と仲良しになってたんだな」
「『どこがですか』」
敬語キャラ2人の声が、ピタリと重なる。それを見た虎於は、さらに口角を上げるのだった。
そんな彼に、巳波は申し出る。
「後から来てこんなことをお願いするのは気が引けますが、ここは私に譲っていただけません?」
「断る。俺の方も、大事な話があるからな」
睨み合う2人。その様子は、とても仲良しこよしには見えない。彼らがどういう経緯で今日の話し合いを見学していたのかは知らないが、一連托生というわけではないのか?
『どちらからでも良いですが、急いでもらえますか?こっちは、それでなくても時間が足りないんですよ。考えなくてはいけない事柄が、多過ぎて』