第88章 合言葉をはいどうぞ!
『私は昔から、モテる方ではありましたが。ここまで執心されたのはさすがに初めてです。照れてしまいますね』
「軽口で隠したって無駄だ。可哀想に、顔色が悪いし手も震えてるよ?ほら、言ってごらん。君をそんなふうに恐怖させた理由は何かな?」
今なら、この男に関わるなと言った百の言葉がよく理解出来る。しかし出来るならその助言は、ライブをする前のLioに贈ってやって欲しかった。
了は、危険な男だ。人の思考を読み取り、さらに心を揺さぶる術を心得ている。非常に聡く、人をどう動かせば上手く物事が転がるかを熟知している。つまりは、1番 敵に回してはいけない部類の輩だ。
この男を社長にした、彼の親族を私は一生恨む。
『私は、もう、ステージに立つ事は出来ないんです。知っているんでしょう。この、喉のこと』
「その役立たずに成り下がった喉でも声は出せてるじゃないか!それに、壊れているからこそ利用価値もある。馬鹿な群衆は、お情けや苦労話に弱い。
一度は夢を諦めた伝説のアイドルが、それでも懸命に声をうわずらせながら歌う!どう!?涙無しでは見られない最高のストーリーだ!うん、やっぱり僕は天才なのかな?あはは!」
『クズが』
「ん?いま何か言ったー?」
『いえ何も』
高笑いする彼に対し、自然と出てしまった暴言。了はわざとらしくも、聞こえないふりをしてくれた。近くで聞いていた虎於と巳波は、笑いを噛み殺した。
「最後の最後まで効率良く使ってあげる。僕が歌えと言ったら歌って、踊れと言ったら踊る。それだけの簡単なお仕事だ。
結果、もしその美しい声が枯れてしまったとしても、飼い続けてあげる。
僕は優しいからねぇ。歌えなくなったカナリアも、面倒をみてやるよ。鳥籠の中に閉じ込めて、最後の、最期まで」