第88章 合言葉をはいどうぞ!
「あれー?どうしたの?僕のお膝は座り心地が悪かったかな?」
『そこまで私に拘る理由は?』
私1人を手に入れる為に、TRIGGERを傷付けたのか。彼らに携わる全ての人間を、巻き込んだのか。芸能界という大きな世界を、ひっくり返したというのか。
私を、手中に収めたいから?理解が、出来ない。
「そうだね。その質問に答えるには、まずはこの質問を君にしなくちゃいけない。
僕のことを、覚えているか?」
『覚えています』
「わぉ!嬉しいなぁ!あんなに沢山いた観客の中の1人でしかなかったはずの僕を覚えてくれていたなんてー」
両手を顔の横で広げ、大袈裟に驚いてみせる了。私は、それで?と話の続きを促した。
「あの場にいた数多の業界人全て、君を欲した。目の前で輝くあの原石を、絶対にうちからデビューさせたい!例外なく、全員がそう思っていたはずだ。それは、僕の兄もまた例外ではなかった。
Lioをツクモに招く為、あらゆる手を尽くした。莫大な金を使ってライバル事務所を蹴落とし、犯罪スレスレの行為で人を動かした。
結果…ツクモプロダクションは、大きく傾むくこととなったんだ。
さらに現実は残酷だった。そこまで手を尽くしたのに君は、パっと。まるで煙みたいに、消えたんだから」
『つまりは…御社が経営不振に陥る原因となった私への復讐。迎え入れる準備を進めてくれていたのに、お兄様を選ばなかったことへの報復。と?』
「あはは、まさか!全然違うよ!
会社を潰しかけたのは、兄が経営センスのない馬鹿だったからだ。それに、会社の立て直しの為に、今まで僕に見向きもしなかった両親や兄が泣き付いてきたのは最高だったよ!君にお礼を言いたくなったくらいにね」
『…では、なぜ貴方は私に拘るのですか』
質問が、ふりだしに戻った。了は、今度こそ本当の答えを語り始める。
「たった一夜しか存在しなかった伝説のアイドルLio。彼女は、人々に最高の夢を見せ、そして消えた。
未だに業界人を魅了し続け、再来を望まれる君だ。そんな君を、僕が手に入れたら…一体どれくらい、気分がいいんだろうねぇ。
欲しいと思わない、わけがない。僕は、強欲な男なんだ」