第88章 合言葉をはいどうぞ!
「いいね。期待していた以上の返答だよ。やっぱり、お前は愉快な女だ」
腰に手が回り、顎を指先が撫でる。
近くで見ると、綺麗な顔をしていると思った。切れ長の目に、通った鼻筋。整った薄い唇。それらはバランスが良く、聡明な顔立ちとみせている。
「でも、ちょっと違うんだよねぇ」
あと3センチ近付けば、口付けが交わされていたのだが。私の唇には、彼の指先が乗せられた。
閉じかけていた目を開き。2、3度瞬きをする私を見て、彼は首を振った。
「これはこれで楽しそうではあるけどねぇ。僕が求めているのは、こうじゃない」
『分かりやすく説明してもらえますか?』
「さっき言った通り、僕は君の全てが欲しい。僕は、強欲な男なんだ。だからね、エリも、春人も。それからHも。勿論 Lioだって、手中に収めないと気が済まない」
彼は指を折り、私の仮名の全てを数えた。それから、恐ろしい言葉を並べ続ける。
「エリ。君の正体を知る者は少ない。そんな君を、僕はガラスケースに入れて毎日愛でよう。
春人。その手腕は、この僕が目を見張るほどだ。今後はその能力を、ツクモの為に使え。
作曲家H。君の作る曲、とても好きだよ?謎の作曲家なんて言われて世間の話題を集める君に、僕だけの為に曲を作ってもらおうかな?うん!贅沢だよね。
それから、Lio…
お前は、ツクモプロダクションからデビューさせる」
最後の一文を全部聞く前に、私は彼の膝から下りた。