第88章 合言葉をはいどうぞ!
さて。啖呵を切ったのは良かったが、実のところ冷や汗が止まらない。視界の端で、巳波と虎於が微笑を浮かべているのが確認出来た。まるで、何か催し物でも鑑賞しているかのように。
そして了は、ようやく反応を見せた。
「っあはは!いいね最高だ!思ってもみなかった切り返しだったよ!うんうん君は面白い!やっぱりモモは嘘吐きだね!君がつまらない奴だなんて。僕に嘘を吐いた悪い子の彼には、後でうんとお仕置きしなくちゃ」
『お望みなら、渾身のギャグでも変顔でも披露します。それでTRIGGERを見逃してくれませんか?』
「はは!冗談だろ?残念ながら僕のお望みは、そんな軽いものじゃない。
僕が欲しいのは… 君の 全部だ」
了は、にやりと目を三日月のように歪めた。そして低い声で続ける。
「中崎エリ。君の体も、心も。全てを僕に委ねるんだ。そうしたら君の大好きなTRIGGERは、これからも真っ白な世界で歌って踊って、幸せに暮らしていけるよ。
さぁ、どうする?」
『どうするもなにも』
私は腰を上げ、ゆったりとした足取りで了の元へと向かう。そして、彼の膝の上へと座り直した。
『それくらいで良いのでしたら、いくらでも差し出しましょう』
そんな様子を見ていた虎於が、ヒュゥと口笛を鳴らす。
「了さんの次は、俺とも遊ぼうぜ。当然、答えはオーケーだろ?」
「はぁ。貴方達、一体どこで品性を失くして来たのです?」
了の首の後ろへ腕を回す。それから徐々に距離を縮め、唇を寄せていく。
嫌いな相手との性交渉は、私の得意とするところだ。むしろ、嫌いな相手だから。割り切って対価を差し出せる。
脳裏に、龍之介の顔が浮かばないわけではなかった。しかし瞳を閉じることで、それに気付かないふりをした。