第88章 合言葉をはいどうぞ!
「俺は、感動した…!」
「まぁ、ボクも」
「俺も…っ」うぅ
『やめて下さいよ』
彼女と別れ、ハンドルを握る私に語り掛けるメンバー達。
「こんな時でも、彼女の前では 彼女が望む理想のキャラクターを演じ切る。そこに、プロ意識が見て取れた気がしたよ。なかなか出来ることじゃないと思」
「いや天。感動するところはそこか?」
「春人くんの優しさが、伝わって来た。彼女を巻き込んじゃいけないって思ったんだよね」
雨粒が、フロントガラスを叩く。雨足が次第に強いものに変わり、ワイパーの速度を速める。
左、右と、慌ただしく動くそれを、なんとなく目で追いながら答えを返す。
『…優しい。って。それじゃ、駄目でしょう。
私は、プロデューサー失格ですね。彼女の事を、利用出来なかった。
TRIGGERの為なら、なんだって切り捨ててやるって。そう心に誓って、ここまで走って来たはずなのに』
「おい。春人」
『…何ですか、楽』
「お前は、間違ってる」
『はい。だからさっきからそう言っ』
「違う。間違ってるのは、いまお前が言った考え方だ。TRIGGERの為に、何かを利用する?犠牲にする?ふざけるな。
そんな事は、俺が絶対に許さない。それがたとえ、お前自身であってもだ。これだけは、よく覚えとけ」
『……』
言い終えてからも楽は、ったく。親父みたいなこと言いやがって。と、ぶつくさ文句を続けていた。
そんな様子を見ていた天と龍之介は、声を出さずに笑っているのだった。