第88章 合言葉をはいどうぞ!
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「俺は、感動した…!」
「まぁ、ボクも」
「2人とも、大袈裟なんだから!なんか恥ずかしくなるからやめて」
もう日も暮れた。局にいると、どうも時間の感覚が狂う。
私達は、事務所へと帰る為に車へと乗り込んでいた。
『私も、少し感動しました。あぁいう真っ直ぐな言葉が自然に出て来るのが、龍の良いところですよね』
「春人くんまで…っ」
『ふふ。ほら、シートベルトはしましたか?出しますよ』
後部座席の3人が、しっかりベルトをかけたところを確認して。アクセルを踏もうとした、その瞬間。サイドミラーに、見知った人物が映り込む。
私は すぐさま車から降りて、彼女の元へ駆け寄った。
「春人くん!良かった…っ、会えて!さっき、いっしょ のプロデューサーに会って、春人くん達が、局に来てるって聞いて、私…っ」
『あはは。僕はここにいるので、そんなに焦って話さなくても良いですよ』
私を追い掛けて来た彼女は、TRIGGERといっしょ の構成作家だ。
苦しそうに肩で息をして、私の体を両手でしっかりと掴む。
笑顔を浮かべ、普通に話せるようになるまで待ってやる。
「春人くん、TRIGGERや貴方は…大丈夫なの?」
『うーん…まぁ、大丈夫ですよ?それよりも、貴女の方は大丈夫なんですか?
僕達と仲良くしてるところを誰かに見られたら、面倒な事に』
「そんな事は、どうだっていいの!」
『!!』
彼女は視線をキッと私へ向ける。しかしその強気な瞳は、きらりと光っていた。
「私は…私、悔しい…!今まで皆んなで作り上げて来た番組が、こんな簡単に打ち切られるなんて。
打ち切りだって言われて、何も出来なかった自分も!仕方がないって簡単に諦めていく周りの人間も!どっちにも…腹が立って仕方ないのよ!」