第11章 本当に…ありがとう
「あれはっ、違います!」
『え?』
私はいかにも嬉しそうに顔を上げる。そして、彼女の言葉の続きを待った。
「あれは、…頼まれて、演技していただけなんです」
ドライブレコーダーに、喉から手が出る程欲しかった言葉がみるみる録音されていく。
彼女の口から、ハッキリと飛び出したのだ。出版社名、担当者の名前も。
「十龍之介をハメれば、来週号のMONDAYで 私の特集ページをやるからって約束で…!」
『…では、貴女は TRIGGERの十龍之介と、何かあった訳ではないのですか?』
「そうです!あの人は全然、聞いてたイメージと違って。もっと遊び人だって聞いてたから 部屋に招き入れて、せっかく私が誘ってあげたのに…。
手も握らないで、逃げるみたいに出て行ったんですよ?ふふ、春人さんみたいに大人の男の魅力なんてちっとも無くて。本当に拍子抜けって感じだったん」
私は、抱きしめていた彼女を ぱっと解放する。
「…え?春人、さん?し、信じてくださいさい!十龍之介より私は貴方の事がっ」
縋りつこうとする彼女の肩を、突き放すように軽く押した。
『…貴女、全く男を見る目が無いですね。そんな貴女に、私が教えてあげますよ。
TRIGGERの十龍之介は、最高に 良い男です』
ぽかんと、私を見上げる彼女。少し可哀想かとも思ったが…彼女は、自益の為に 純粋無垢な龍之介をハメるような人間だ。
正直、私には同情の余地は無い。
呆然とする彼女を置いて、そのまま私は部屋を出た。