第11章 本当に…ありがとう
私は、一歩彼女に近付いて言う。
『貴女を見つけた瞬間は、本当にスカウトしたいと思ったのに。
どうしてでしょう。今は…、貴女を世に出すのでは無く 独り占めしたいと思っている自分がいるのです』
「…春人、さん…」
その赤く染まる頬、潤んだ瞳に答えるように 私は彼女を抱き寄せる。
「ぁ……」
キツイ香水の匂いが、私の神経を逆撫でする。
『貴女がうちからデビューすれば、間違い無く看板モデルになる事でしょう…私が、必ず貴女をトップモデルにしてみせます。そうしたら、たくさんのファンが貴女を求めるようになる。
でも…』
私は、腕の中にいる彼女の顎を優しく持ち上げる。
『…どうか 心だけは、私に下さいませんか』
目一杯 真剣な表情で彼女を見つめると。彼女はゆっくりと頷いた。
「はい…。喜んで…」
もう大丈夫だろう。
彼女は、落ちた。
『…ありがとうございます。幸せ過ぎて…なんだか信じられません』
ただ…
と。私は幸せな表情から一転、悲しげに目を伏せる。
「どうしたんですか?春人さんっ、私…私は、貴方のものになります!」
『…本当でしょうか。貴女の気持ちを疑う訳ではないのですが…。
もしかすると、貴女にはもう 心に決めた人がいるのではないですか?』
私が切なげに言うと、彼女は全力で否定した。懸命に私を見上げている。
「そ、そんな事はありません!私の心は、貴方のものです!」
ついに私は、言葉を斬り込む。
『…TRIGGERの、…十龍之介。言うまでもなく、うちの看板アイドルです。彼とMONDAYに載ったのは…貴女、ですよね。
貴女は…愛しているのではないですか?彼の事を』
さぁ、どう出る。