第87章 こっち側は、私の領分だから
『そんな事より』
「そんな事よりって春人くん、酷いっスね」
『聞きたい事があるんです』
私がそう切り出すと、彼の表情が曇る。これから何を問われるのか、察しているのだろう。
そんな彼に、楽が一歩詰め寄った。
「知ってることを、教えて欲しい。
どうして周りの奴らが皆んな、急に俺達から離れていった?誰かに何かを言われたのか?一体、裏で何が動いてるんだ」
「…オレみたいな、末端のAD風情が知ってるわけないじゃないですか。
気が付いたら、こんな空気が出来上がってたんスよ。暗黙の了解みたいな感じで、TRIGGERに、八乙女プロには関わるな。関わったり庇ったりしたら最後、自分達も 巻き込まれる…って」
神妙な面持ちの彼の言葉に、私達は ごくりと固唾を飲んだ。
「なんか、心当たりはないんですか!?
お偉いさんのカツラ取っちゃったとか、権力者の不倫言いふらしたとか!たとえば八乙女さんとかが!」
「だから、んな事するわけねぇだろ!」
『…私達に関わったら、巻き込まれる。ですか。それが本当なら、貴方には申し訳ない事をしました』
「そうですね。ボクらと こうやって話しているところを誰かに見られる前に、行って下さい」
「話を聞いてもらって、ありがとうございました」
「可愛い彼女、出来るといいな」
そう順番に言葉をかけて。私達は、早くトイレから出るよう促した。
しかし彼はなかなか退室せず、悔しそうに唇を噛んで俯いた。そして、覚悟を決めたように顔を上向ける。
「オレ、本当に何も知らないっスけど、ただ…」
『ただ?』
「TRIGGERさんの、変な噂が 回ってるみたいで」
「俺達の噂?なんだそれ」