第87章 こっち側は、私の領分だから
「っ天…!お前」
「ちょっと。なんで涙ぐんでるの。それは普通に引くんだけど」
「天!!俺っ、嬉しいよ!俺も、俺もTRIGGERが大好きだ!!」
「やめて!大声でそれは、さすがにやめて」
3人をここへ連れて来れば、彼らは傷付けられてしまうのではないかと思った。でも、全然そうはならなかった。少し考えれば、分かったはずなのに。
TRIGGERが歩んで来た道で培った、自信や誇りは 宝石のように固く。何人たりとも、それを傷付ける事など出来ないのだ。
異様な空気感に包まれているというのに、楽しげに戯れるメンバー。なんとも頼もしいではないか。
そんなふうに思って観察していた、その中。
私は視界の端で、蠢く “ それ ” を捉えた。
それは こちらの姿に気付くやいなや、そそくさと曲り角の向こうへと逃げて行った。
「どうかした?春人くん」
『ターゲットを肉眼で捕捉。これより、捕縛作業に入ります』
「プロデューサーが、ロボットみたいになってる」
「色んなこと考え過ぎて、おかしくなっちまったのか?」
駆け足で角を曲がると、左右を見渡す。しかしそこには、誰の姿も見受けられなかった。
逃げられたか…なんて、思わない。私はすぐさま、男子トイレのドアを開く。
すると そこには。
逃げ果せたと思って胸を撫で下ろしている、男の姿が。そんな彼の肩の上に、後ろから ぽんと手を乗せる。
『ひどいじゃないですか。人の事を見るなり逃げ出すなんて』
「う…春人、くん…」
顔の筋肉を引きつらせながら、男は くるぅりとこちらを振り返った。