第87章 こっち側は、私の領分だから
天気がぐずついている。今にも泣き出さんとしている空は、まるで私達の胸中を表しているみたいだった。
「原因は、何なんだろうな。明らかに、人為的だろ。これ」
「楽、誰かに何かしたんじゃないの?心当たりは?大御所のカツラを人前で取ったとか。巨匠の不倫を吹聴して回ったとか」
「おい。ふざけろよ…誰がするか、んなこと」
「心当たりって言うなら…。春人くんは?君は何か、思い当たる節があるんじゃないか?」
「なんだ?龍は、こいつが何か大ポカやらかしたせいで今こんな事になってると思ってんのか?」
「ち、違うよ!そうじゃなくて…!」
「誰かが、八乙女プロを、TRIGGERを潰す気で動いてるのは間違いない。
プロデューサーは その “ 誰か ” に、心当たりがあるの?」
天からの質問を受けた瞬間。脳裏には、あの男の顔が浮かび上がった。
しかし、勝手にそうだと決め付けるのは時期尚早。そもそも、彼にこんな仕打ちを受ける謂(いわ)れがない。どんなメリットがあって、うちを攻撃するというのだろう。
『…さぁ。まだ、分かりません。原因をはっきりさせる為に、今こうしてテレビ局に向かってるので』
「もし、本当に誰かが俺達を潰す為に動いてて。卑怯な手を使って裏でこそこそやってるってんなら、絶対に許さねぇ。俺が、そいつを ぶん殴ってでも止めてやる」
『楽。貴方達は絶対に手を出さないで下さいよ?』
「なんでだ」
『こっち側は、私の領分だからです。
もし仮に…TRIGGERのライブステージで、私が勝手に踊って歌ったら貴方は怒るでしょう。それは、そちらがアイドルの領分だから。
それと同じで、今回の件はアイドル本人達が出て来てはいけない場所なんです。
相手が誰だか知りませんが…喧嘩を売られているのは、私なんですよ』