第87章 こっち側は、私の領分だから
バイクで行こうかとも思ったが、今日はタクシーで出社した為にそれがない。仕方なく、社用車へと乗り込んだ。
『ぅわ!』
こんな情けない声を上げたのには、もちろん理由がある。誰も乗っているはずのない車に、なんと3人も先客がいたのだから。
「はは。ちょっと飛んだな、いま」
「ごめんね。驚かせちゃって」
「思ったよりも遅かったね。早く出して」
『出しますよ。貴方達が降りたら即座に』
なんて言ってみたが。そう素直にこの3人が折れてくれるとは思ってない。
案の定、彼らは頑として動かなかった。
『…貴方達が行ったところで、嫌な思いをするだけですよ?きっと』
「そんなことは分かってる。でも、ボク達は当事者だから。この目で、いま自分達の身に何が起こってるのか見定めたい」
「俺も行く。君がもし、何かと戦おうとしてるなら。何かを守ろうとしてるなら。そのとき俺達は、絶対 隣にいなくちゃいけない」
「天と龍の言う通りだ。これは、TRIGGERの総意なんだよ。
だから春人。俺達も、連れていけ」
私は、今の彼らを説き伏せられるだけの言葉を持ち合わせていない。
しかしまぁ、理解に苦しむ。彼らは どうしてわざわざ、しなくても良い苦労を買おうというのか。トラブルの解決なんて、私やスタッフに任せておけば良いものを。
呆れているのに、口元には不思議と笑みがこぼれる。そんな表情を隠すように、私は前を向く。そしてエンジンキーを回した。
『ほら、早くシートベルトして下さい。そのままじゃ、いつまで経っても出発出来ないでしょう』