第87章 こっち側は、私の領分だから
受話器を置き、奥歯をギリっと噛み締める私に、運営部スタッフは悲しげにこぼす。
「…自分達はただ、いつもと同じ様に動いてただけなのに。急にこんな、周りがどんどん扉を閉ざしていく…。どうしたら良いのか。俺達が一体、何をしたっていうんでしょうね。
もうこんなの、お手上げですよ」
『私達が両手を上げて、思考を止めてしまえば。所属タレントは、どうなるんですか。
こちらに非がないのなら、余計に諦めたりしちゃ駄目です』
「中崎さん…」
隣では姉鷺が、私と同じく原因解明の為に各所へ電話をかけていた。
彼が受話器を置くタイミングを見計らって、声を掛ける。
『姉鷺さん』
「どうしたの」
『少し出て来ます。留守を、お願い出来ますか』
「えぇ、構わないけど…どこに行くの?」
椅子からゆっくりと立ち上がる。そして、外していたジャケットのボタンをひとつ留める。
ただそれだけの一連の流れを 姉鷺だけでなく、周りにいた所員達も、祈る様な面持ちで見つめていた。
『あけぼのテレビへ。ここで何本電話をかけていたって、埒が明かない。滅茶苦茶で雑な理由を作って、うちから手を引こうとしてる人間達に、直接会いに行って来ます』
「達、って…一体 誰に会うっていうのよ」
『誰でもいいです。うちは今、これだけトラブルに塗(まみ)れてるんですから。でかい局に行けば、当事者の誰かしらは捕まえられるでしょう。
そして運が良ければ、事情を知る人間から 本当の理由が聞けるかもしれない。
どうして、皆んなが一斉に八乙女プロを敬遠し始めたのか という理由を』
ギラリと前を見据える私に、姉鷺は頷いた。そして 留守は任せろと、頼りになる言葉を聞かせてくれるのだった。