第87章 こっち側は、私の領分だから
扉を閉める私に、姉鷺が語り掛ける。
「あの場で笑ってみせる アンタの図太さ。アタシ嫌いじゃないわよ」
『あんなのは、剛健気取っただけですよ。貴方も言っていたでしょう。タレントを、不安にしては本末転倒だと』
「その通りね。でも気付いてた?
あの子達、あなたが笑えば笑うほど、強がり言えば言うほど、不安そうな顔をしていたことに」
『嘘でしょう?』
「嘘なもんですか。とっくにバレてんでしょ。
窮地であればあるほど、アンタは笑って、前向きな事しか言わなくなるって」
『……気を付けます』
「えぇ。そうなさい」
知らされた事実に、ショックを隠せない私。そして姉鷺が頷いたとき。ちょうど制作部の扉が見えてくる。
私達は、降りかかった問題を解決すべく、その扉を開いた。
なるべく丁寧に聴取してから、次の部へと向かう。
営業部、管理部、企画部に運営部。当初の予定になかった部署も、とにかく回れるだけ回った。
案の定、どこも何かしらのトラブルに見舞われていた。聞かされていた内容も、寝耳に水の話も、とにかく問題のオンパレード。
まとめた情報を手帳に書き留めていったのだが、すぐに全ページが真っ黒になってしまった。
各部署に共通していることは、こちらには特に非がないことだ。それなのに、相手側から難癖を付けられ、取引や契約の中断を余儀なくされている。
適当に理由はでっち上げられているものの、それが本当の理由でないことは火を見るより明らかだった。
そして、誰もその本当の理由を頑なに話そうとはしない。向こうに私が直接連絡を取り、真相を探っても。誰もが固く口を閉ざしたのだ。
最初は怒りが込み上げてきたが、今はただ…気味が悪かった。
これまでTRIGGERをちやほやしてきた人間達の、急な手のひら返しも。
短期間のうちに ここまで私達を追い詰める事が出来る、目に見えない敵の手腕も。
とにかく、気味が悪かった。