第11章 本当に…ありがとう
雑談等も交えながら、食事は進んでいく。
「中崎さんは…」
『どうぞ、春人と お呼びください』
押し付けない程度に、そう訴えかける。
「は、はいっ、春人さんは…」
すぐに呼び方を変えるのは、良い兆候だ。警戒心は無いとみて良いだろう。
「どうして今日、あの撮影現場にいたんですか?」
私の心の中を覗きたい、と言わんばかりに 彼女の瞳はこちらに向けられる。
『…実は、うちの事務所に 新しいモデルさんをと考えておりまして』
「え!」
この言葉に、待ってましたと言わんばかりに身を乗り出す彼女。よほど契約が欲しいと見える。
『まぁ、平たく言えば スカウトですね。もうずっと、色々な現場を回っていたのですが…なかなか思うような方と出会えず…。
でも、今日…こうして貴女と出会えた』
ここぞとばかりに、ふわりと微笑む。
「っ、」
『…実は、上に 部屋をとってあります。詳しい話を、そこでさせて頂けないでしょうか』
私はルームキーを、すっとテーブルの上に置く。すると、何度も首を縦に振って。こくこくと頷いてみせるのだった。
彼女を部屋に入れると同時に、ボイスレコーダーのスイッチを入れる。
「部屋も凄いですね…」
『ふふ。貴女のために、用意したんですよ』
うっとりとした、熱のこもった瞳でこちらを見つめて来る女性。もう少しで、確実に落ちる。
私が、彼女の事を特別に想っていると信じ込ませる。そして。彼女もまた、私に特別な感情を持ってくれれば…きっと、ずっと深い話が出来るだろう。
そう、例えば… 固く口止めされている、言ってはいけない秘密とか。