第87章 こっち側は、私の領分だから
ツクモ。
そう聞いた時、私の身体中を何かが ぞわりと駆け抜けた。妙に納得すると共に、一番聞きたくなかったワードでもあったような。そんな不思議な感覚。
「ツクモから、引き抜きの打診があったんだ。でも、僕は断ったよ。TRIGGERの事が好きだからね。高給とか、名声とか、そういうのの為にこの仕事やってるんじゃないから。
でも、ツクモは異様な執着を見せた。もしも僕がツクモに来ない場合は、TRIGGERも…僕も、絶対に潰してやるって脅されたんだ」
『物騒ですね』
「八乙女プロも、さすがのTRIGGERも。ツクモに目を付けられたら、大成は難しい。その辺の事情に疎い僕でも、それくらいは分かったから」
『だから貴方は、自分がツクモに行くことを決めた』
「まぁ、ね。
でも本当は、話すなって言われてたんだ。ここの人間には黙って、ツクモに来いって言われてた」
『でも、言っちゃいましたね』
「本当だよ。内緒にしてよね?春人くん。もしツクモ側にバレて、僕の献身的な移籍が無駄になったら嫌だから」
ツクモの言いなりになどならず、ここに留まれば良い。そんな言葉が、喉まで出かかった。しかし、なんとか飲み込んだ。
きっと彼は、私がどう言おうと身の振り方は変えないだろう。だって、彼はさっき自分で言っていた。
私が止めても、もうこの会社には残らないと。
「春人くん。ありがとう」
『嫌味にすら聞こえますよ。
私が貴方に、一体 何をしてあげられたと言うんですか』
「僕は、感謝してるんだ。
君が、TRIGGERの側にいてくれることに」
『え?』
「僕が、ツクモへの移籍を決意出来たのは…春人くん。君が、TRIGGERの側にいてくれるからだ。だからこそ、僕は安心してここを出ていける。
これから先、きっと、もっと色んな事が起こる。沢山の困難が待ち受けてると思う。でも、お願いだ。
君は、君だけは、変わらずTRIGGERの側を離れないで。ずっと彼らの隣にいて、彼らを支え続けてくれ。
僕は、TRIGGERと八乙女プロが本当に大好きなんだ。こんなにも大切なもの、託せるのは君しかいない。
勝手なお願いだけど、後のこと…頼んだよ」