第87章 こっち側は、私の領分だから
なんと、重たい言葉だろうか。彼がどれほどTRIGGERを愛しているのか、ひしひしと伝わってくる。
私は、ひとつ頷く。すると彼は最後に、君と踊ったり振りを考えるのは凄く楽しかったよ。ありがとう。
そう残して、八乙女プロダクションを出て行ったのだった。
胸が痛くない、わけではない。しかしながら。仲間が去ったからといって、打ちひしがれている時間は私にはない。
動けるだけ動いて、やるべき事をやらなければ。
取り急ぎ社長に、CMの件を報告。やはり彼も私と同じく、すぐに替わりの放送枠を確保するようにと各部に指示を飛ばした。
それとは別に、私にはやるべき事が出来た。
それは、このCMのトラブルに、ツクモが関わっているのか否か。それを突き止める事である。
脳内に、月雲了の笑顔がチラついていた。もし、彼が暗躍しているのだとしたら…一体 何が目的で、今後どうなってしまうのだろう。
考えるだけで、勝手に体が震えた。
そして。代わりの番組探しは難航した。まるで何か、見えない力が裏で働いているかのように。皆んなが皆んなTRIGGERを、八乙女プロダクションを敬遠したのだ。
『そこを何とか、差し込んでもらえませんか。15秒CMだけでも…いや、はい。急なお願いだというのは、こちらも重々…
えぇ…はい。そうですか、分かりました。突然の連絡を、お許し下さい。失礼致します』
電話を置くと、神妙な面持ちの3人が私の前に並び立った。
『あ、おはようございます』
「おう、はよ…って。呑気に挨拶してる場合じゃ、ねぇんだろ?」
「詳しくは聞いてないけど、ボクらのCMが流せなくなったって本当なの?」
『当初 流す予定だった番組で流せなくなった事は、確定ですね』
「まじかよ。一体、何がどうなったらそんな事が起きるんだ!」
『そう思いますよね。私も…それを早く突き止めたいとは思ってるんです』