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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第87章 こっち側は、私の領分だから




困ったように微笑んで、了承してくれた彼とやって来たのは、ダンスレッスン室だった。
ここは、私達が初めて出会った場所。彼は、目を細めて室内を見渡した。


「懐かしいなぁ。今でもよく覚えてるよ。ここで、君と会った時のこと」

『私と楽がレッスンをしているところに、貴方がやって来たんでしたね』
【2章 22ページ】

「そうそう!そしたら春人くんがいきなりさ、TRIGGERのプロデュースを全任されましたー!とか言ってさ!
ダンスも振付けも、ずば抜けたセンスでこなしちゃうし、僕は本気でお払い箱かと思ったんだよ?!」

『はは。でも、そうはならなかったでしょう』

「そうだね」


彼は、俯いてぽつりと言う。そして両足を艶やかな床の上で動かすと、キュっとゴムの擦れる音が室内に響いた。


『それが何故だか、分かりますか』

「君が、僕をクビにしないでって社長に言ってくれたからだ」

『全然 違いますよ。貴方がお払い箱にならなかったのは…
ただ、TRIGGERにとって、貴方が必要な人だったからです』

「……」

『貴方が生み出すダンスなくして、今のTRIGGERはなかった』

「…ぅ、…ずるいよ、春人くん…。止めないって…言ってたくせに」

『私、べつに止めてないでしょう』


彼の涙が、ポタポタとフロアに落ちていく。私は、そっとハンカチを差し出した。


『きっともう貴方は、ここを去る意志を固めてしまっているのでしょう。だから、止めません。ただ、餞別代わりにひとつ教えて下さい。

貴方はどうして、ここを去らなければならないのです?』

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