第87章 こっち側は、私の領分だから
急務は、新しくCMを流してもらえる番組を探すことだ。おそらく、それはさして難しくない。
このご時世だ。金を落としてくれるCMを求めている番組は多い。多少 経費はかさむが、通常よりも少し色を付けた金額を提示すれば…問題なく放映してくれるだろう。
そうと決まれば、トップに報告をと。私は社長室を訪れた。すると中から、特大の雷が落ちる音が聞こえてきた。
「今すぐに荷物をまとめて出て行け!!お前の代わりなぞ、いくらでもいる!もう顔も見たくないわ!明日から出社しなくてもいい!!」
思わず、扉が開け放たれているのでは?と、確認したほどだ。しかし、それはしっかりと閉じられている。
それでこの声量…社長は、相当おかんむりのご様子だ。
そして、散々 怒鳴り散らされた張本人が部屋から出て来た。肩を落とした彼は、私を見止めて あっと声を漏らす。
『どうも。お説教は、もう終わりました?
おっかないですよね。ご愁傷様です』
「はは…。まぁ、社長から受ける最後の説教だと思ったら…ほんのちょっとだけ、愛おしさすら感じちゃったよ」
もしも彼が、この会社に愛想を尽かして辞めるつもりならば。社長に怒鳴られ、愛おしいなどという感情を抱くはずがない。
やはり彼は、辞めたくて辞めるのではないのでは?
『ちょっとだけ、私と話をしてみませんか』
「ごめんね。いくら春人くんに止められても、僕はもうこの会社には残らない」
『おや、私はべつに止めませんよ?』
「…え、えぇー…ちょっとは止めてよ、止めようよそこは!」
『ややこしい人ですね。止めて欲しいのか欲しくないのか、一体どっちなんですか』
「あはは!もう、なんか力抜けちゃったよ!春人くんは最後まで春人くんだなぁ」
『ふふ、どうです?こんなお茶目な私と、最後に話をしてからここを去るのも悪くないと思いません?』