第87章 こっち側は、私の領分だから
そして、2本目の電話。相手は姉鷺であった。そして興奮気味に、彼は告げた。
ずっと専属でTRIGGERの為に、頑張ってくれていた振付師が、唐突に辞表を提出したと。これには、少なからず私も動揺した。
彼と私の付き合いは、TRIGGERと同じで、もう2年と半年以上にもなる。
私と出会ってからも、出会う前からも、彼はTRIGGERの振付師として力を発揮してくれていた。
時には共に体を動かし、振り付けを考えたりしたのも、良い思い出だ。そんな彼は、とても満足そうに見えた。自分の仕事にやり甲斐を感じ、活き活きしていると思っていたのに。
『私は、何かを見誤っていたのかな…』
それとも何か、辞めざるを得ない事情でも出来てしまったのだろうか。
なんて。こんなふうに、考えたところで答えの出ない問題に時間を費やしてしまうなど。私らしくもない。
小さく息を吐いたその時、運転手が到着を告げた。
退職云々は、内輪の話。それより、いま優先しなくてはいけないのは、CMの件のほうだ。
私はその足で、セールス部へと向かった。
そして、時間をかけて当事者から話を聞くも…やはり、原因究明には至らなかった。
本人も、何の心当たりもない。何故か突然 激怒され、CMは流さない!と宣告されてしまったらしい。
相手方に私が直接出向き、話を聞いたところで結果は同じだろう。
気の毒だが、彼女はおそらくスケープゴートにされたのだ。
わざわざ一度結んだ契約を白紙に戻してまで、うちのCMは流さない。そこには、頑とした確固たる意志が窺える。
一体そこに、どんな理由が生まれたというのか…