第87章 こっち側は、私の領分だから
私は大通りに出ると、すぐさまタクシーを捕まえた。車内へ飛び乗り、行き先を告げる。そして、到着するまで話しかけないよう運転手に伝えた。
会社までの移動時間でさえ、惜しい。私はパソコンを膝の上で開く。そして、転送されたメールのチェックを始めた。
『………』
(やっぱり、私の目から見ても何の問題もない)
さきほどの、1本目の電話。それは、うちのセールス部からであった。
内容は、こうだ。
来月発売の、TRIGGERのニューアルバム。その販促CMを流してもらう予定だった番組から、突如として断りの電話が入ったらしい。八乙女プロ関係のCMは、流さないと。
理由は、うちの人間が粗相をしでかし、番組スポンサーが八乙女に対しNGを出したというもの。
『…ありえない』
来月放送の契約を取り付けており、今日 撮りだったCMだ。それが急に、やっぱり流さない?そんな無茶は、普通なら通らない。
よほどこちらに非がなければ、通る事例ではない。
しかし。今回 担当していた女性は、セールス部の中でも信頼の置ける人物。
実際、こうして重要なメールは保護設定をかけて保存しているような彼女だ。そんな人間が、そこまで重大なミスを犯し報告を上げないはずがない。
そのメールには、しっかりと明記されている。放送予定日時、契約金、番組名にスポンサーの会社名。
最後にやり取りが行われたのは、2日前。こちらも相手方も、何の違和感を持つことなく案件を進めているではないか。
どう考えても解せない。
何がどう転がれば、こんな事が起こりえるのだろうか…