第11章 本当に…ありがとう
「わ…凄い…、綺麗…」
レストランからの夜景に、彼女は椅子に座るのも忘れて見惚れている。
店員が椅子を引いて待っていてくれてるのだが…。そんな事には全く気付いていない様子。
私は店員に、下がってくれても大丈夫だと合図をしてから。自分が彼女の椅子の後ろに立った。
『気に入って頂けてよかったです。さぁ、どうぞ』
私が促すと、ようやく気が付いてくれたようだ。私は彼女が座るタイミングに合わせて ゆっくりと椅子を押した。
それから私もやっと席に着く。
『何か、お嫌いな物はありますか?』
「特には…」
『お酒は大丈夫ですか?』
「少しなら大丈夫です」
私はそれだけ確認すると 店員を呼び、メニューの1番上のコースを注文した。お酒は料理に合わせておススメで持ってきて貰う事にする。
やがてアミューズがテーブルへと運ばれて来る。
目の前に並んだ、たくさんのナイフとフォーク。彼女は どれから使ったものかと、目が泳いでいる。
私が素早く外側からシルバーを手に取ると。それを確認した彼女も同じ位置のものに手を伸ばした。
『今日は…本当に申し訳ありませんでした。大切なお召し物を汚してしまうなんて』
「あ、もう気にしないで下さい!あの角でぶつかれたおかげで、今こうして こんなに豪華な食事を頂いているんですから」
そう言ってから、彼女は本当に美味しそうに料理を口に運ぶのだった。
『…そうですね。私も、あの時あの場所で コーヒーを持っていたおかげで 貴女とこうして時間を共にする事が出来て、とても嬉しいです』
ここから、出来る限りの甘い言葉を吐き、優しく接して。本格的に彼女を油断させる。