第86章 あの人に近付いちゃ駄目だ
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「はぁ…」
「龍。もう溜息やめたら」
「ま、50%を外したら溜息も出るよな」
階下に待たせてあるタクシーへ向かう途中。龍之介は、何度目か分からない溜息を吐いた。
そんな彼の手には、ビンゴの景品がある。それにはこう書かれていた。
“ 恐竜の化石 発掘セット ”
まったく…誰にどんな忖度をしたら、ビンゴの景品にここまで知育玩具が揃うのか。
「春人くんに、ハワイ旅行をプレゼントしてあげたかったなぁ…」
『お気持ちだけで。それに、化石の発掘も楽しそうです』
「本当?良かった…じゃあ、一緒にやろうか」
『ふふ。はい』
「お前ら、ほんとそういうチマチマしたの好きだよな」
揶揄うように楽が言い放った、その時。後方から、私の名を呼びながら彼がやって来た。
「おーい!春人ちゃーん!」
『!』
「百さん?そんな慌てて、何かあったんすか?」
「ん、まぁちょっとね!
良かった、帰る前に会えて」
こちらに、ちろりと視線を投げる百。私は 何かあったのかと、さきほど楽が問いかけたのと同じ内容を口にした。
「ただ、ちょっと一言謝りたくて。
あの人の前で、オレ…嘘とはいえ、春人ちゃんに たくさん酷いこと言っちゃったからさ。
ごめんね!あんなの全部、口から出まかせだから!」
百は、ぱん!と目の前で手の平同士を合わせる。楽、天、龍之介の3人は、突然 謝罪を始めた百を驚いた瞳で見つめていた。
『百さん。大丈夫ですよ。あれが、本心からの言葉だなんて 私は元より思ってません』
「…ほんとに?」
『はい。気にしてません。
だって私は、退屈でつまらない人間でもないし、付き合いだってべつに悪くないし、それにご飯も美味しそうに食べるし、ゲームだってめっちゃ上手いですから』
「ほんとに気にしてないんだよね!?」
飛び跳ねるように驚く百。私が、冗談ですよと笑いかけると、ようやく彼は安堵の息を漏らす。