第11章 本当に…ありがとう
約束の時間の、1時間前に私はホテルへと到着する。そして手筈通りまずは総支配人に挨拶。
『この度は、急にご無理を申し上げまして…。聞き入れて頂けて、助かりました』
私は50代後半くらいの、彼に頭を下げる。
「とんでもございません。八乙女様にはいつもご贔屓にして頂いているので」
なんとも人が良さそうな、人懐こい笑顔。自分の倍以上も歳をとっている男に ついそんな感想を抱いてしまう程に。
私はそのまま、今日使わせて貰う部屋へ案内してもらう。
要望通り、広くて 豪華で。そして夜景のバッチリ見える最上階。
『…完璧です。ありがとうございます』
「お気に召してもらえたようで、光栄です。こちらがカードルームキーでございます。お渡ししておきますね」
これで全ては整った。後は彼女を待つのみだ。
予約が済んだ時点で、連絡はしているので直接レストランに来るだろうが。念の為にホテルのロビーまで出迎える事にした。
「いや、しかし…まさか八乙女様からのご紹介で、こんな可愛らしい女性がいらっしゃるとは思いませんでした」
『…えっ、あ…』
下りのエレベーターの中。彼は唐突にそう言った。降って湧いたストレートな褒め言葉と、女である事を見破られてしまったのと、二重の驚きで声が出なかった。
「あぁ、これは失礼。勿論 他言は致しませんので」
この邪気のない笑顔を向けられてしまっては、もう何も言えまい。
『…はは、ぜひ そうして頂けると、助かります』