第86章 あの人に近付いちゃ駄目だ
私は、楽の背中をぐいっと押す。
『ほら、早く景品もらって来て下さいよ』
「は?なんで俺なんだ」
『楽のカードで当たったんですから。楽のカードでなければ当たらなかったんですから!』
「嫌だ。断る」
『それに、8は楽の管轄でしょう?8を選んだからあれが当たったんですよ!』
「どういう理屈だそりゃ!それを言うなら、プチプチしたお前が取りに行くべきだろ!」
楽は私の腕を掴み、前へと進ませようとする。もちろん、早くステージへ上がれという事だ。
そんな私達に、一織が冷たい声を発する。
「あなた達がそうやって、いつまでもうだうだとしているせいで…うちのセンターが実害を被ったじゃないですか」
「『え?』」
私と楽は、揃ってステージを見上げる。するとそこには、満面の笑みでマイクを向けられる陸の姿があった。
そして、その手にはいつの間にか私のビンゴカードが握られているではないか。
「どうも!おままごとセットを受け取りに来ました、IDOLiSH7の七瀬陸です!」
《 あはは。元気な自己紹介をありがとうございます! 》
司会者と陸を前に、大和と壮五は気恥ずかしそうに俯いた。
「おう…周りから、超微笑ましい目を向けられてんな…」
「おままごとセットにテンションが上がりまくってる大きな子供…に、見えるんでしょうね…」
司会者は、相も変わらず陸にマイクを向け続ける。
《 じゃあこれ、景品です!ぜひ、メンバーの皆さんと遊んで下さいね! 》
「あはは。分かりました!早速、寮に帰ってメンバー達とおままごとやります!」
《 それは楽しそうですね!家族構成は、どんな感じになるのかな 》
「え…そうですね。うーん、大和さんがお父さんで、お母さんは三月かな…」
《 なるほど、ぽいですね! 》
「あ!オレの役は長男です!キャラ的に!」
全員が心の中で “ それはキャスティングミスだ ” と呟いたのは言うまでもない。