第86章 あの人に近付いちゃ駄目だ
「なぁなぁ。中崎さんのビンゴカードは?」
「もしかして、貰い損ねちまったのか?」
環と三月が、私の寂しげな手元を見て問い掛けた。
「良かったら、僕のカードを差し上げますよ」
「ワタシのカードも、アナタのその指にプチプチされたいと言っています」
『ふふ、なんですかそれ。
大丈夫ですよ。逢坂さんも六弥さんも、私の分までゲームを楽しんで下さい』
言いながら、私はステージの上に並ぶ豪華景品をうっとりと見つめた。
最新家電や、大型テレビ。国外、国内の旅行券。さらにはご当地お取り寄せグルメなどなど…
あぁ。どれでも良いから、欲しかった。
「……あの、春人くん。俺のカードをあげ」
「ったく。そんな物欲しそうな目で景品見るぐらいなら、ちゃんとカードもらっとけよ」
『のっぴきならない事情が私にもあったんですよ!』
「あぁそうかよ。それはご苦労さん。
ほら。そんなあんたに、俺のカードくれてやるよ」
『いいですってば。それは楽の物です』
「俺はこういう、ちまちましたゲームはやらねぇんだ。お前が使わないってんなら、このカードは他の誰かに」
ふいっと視線を周りに流した楽。私は堪らず、彼が手にしていたカードに飛び付いた。
『私がやります!』
「はは。はじめから素直に受け取っとけよ」
「八乙女の持ってたカードかー。うんうん!なんか、すっげぇ景品が当たりそうだな!」
「たしかにミツの言う通り。もしかして、世界一周旅行とか当たるんじゃね?」
「んな景品ないっつーの!!」
「ははっ。俺はもってる男だからな。ぜってー当たるぜ。頑張れよ」
『ありがとうございます』
「……よかったね、春人くん」
『はい!』
私は、手に入れたカードを握り締めて気合いを入れた。