第86章 あの人に近付いちゃ駄目だ
その後、私は2人と別れて会場へと戻る。道中で、ふと思い至った。
百に、私がLioであると打ち明ければ良かっただろうか と。
そのライブに招いた客の中に、了がいたことも。
恐らく了は、私がその時にステージで歌っていた人物だとは気付いてないようだが。
百は、千には了が危険な人間だとは打ち明けず、1人で戦っている。その覚悟を、私はさきほど見た気がする。
ならば、少なからず情報はあった方が良いだろう。
しかし…真実を知った百は、一体どんな気持ちになるだろう。
血の滲む努力が、どうしようもなく泡と消えた。そんな過去を持つ彼だ。
私も同じ苦しみを味わったのだと知った彼は…。
優しい彼は、きっと悲しむ。深く、悲しむ。
そう考えると、打ち明けようという決心がなかなか固まらないのだった。
悩んでいる間に、私は会場へと辿り着いた。周りの人達を見渡すと、その手にはビンゴカードがあった。
もうカードの配布は行われたらしい。悲しい気持ちになって、とぼとぼ会場へ足を進めると、そこには皆んながいた。
皆んな とは、三月に環、壮五とナギ。楽と龍之介。それに…大和。
今日 初めて顔を合わせるメンバーと挨拶を交わしながらも、私は大和の気配に気を配る。
こちらから、声を掛けても良いものだろうか。もしかすると迷惑かもしれない。
私がうじうじと考えていると、大和がニヤっと口の端を上げた。
「そのネクタイ」
『え』
「ははっ、万理さんとモロ被り!仲良しかよ」
『なっ、人が気にしてる事を…』
「やっぱ好みが似ちまうのかねえ。お前さん達、仲良しだもんなぁ?」
『べつに仲良しじゃ…!それに、このネクタイを選んだのは私ではなくて り』
「わーー!あ、あはは!ほーら春人くーん?そろそろビンゴが始まるみたいだよ!楽しみだなぁ!うん、すごく楽しみだ!」
龍之介は、私の口をすかさず塞いだ。危ない。非常に危ないところだった。皆んなの前で、このネクタイを選んだのは龍之介だ!とか口走ってしまうところであった。
すんでのところでピンチを脱した私を見つめる大和は、楽しそうに喉をくつくつ鳴らしている。
そんな彼は、とても自然な、いつもの大和であった。