第86章 あの人に近付いちゃ駄目だ
「それよりほら、もうすぐビンゴ大会が始まるぞ。お前、あぁいうの好きだろう?」
『あっ、もうそんな時間?早く戻らなきゃ』
「ビンゴの景品狙ってるっていうのは本当だったんだ!
いやそんなことより!なんだか、ものすご〜く親密な空気が漂っちゃってる感じなんですけど?!2人は、その…一体どのような」
隣に並び立った、私と万理。そして、視線だけをちろりと相手に向ける。その後、同時に口を開く。
「元カノ」
『元カレ』
「………えぇぇええーーーー!!??」
さすが。トッププロの歌手の声量は、半端なかった。
「あはは。百くんは、反応が素直で可愛いな」
「あ、なんだ…冗談なんで」
「ううん。事実」
「何がいつどうなって一体どんな事が起きてたらそんなことにぃ?!」
これでもかと、頭を抱える百。しばらくは、こちら側に帰って来れそうにもない。
その間に万理は、微笑み告げる。
「エリ?俺に何か言う事は?」
『…ネクタイの色がモロに被ってて、隣を歩くのは恥ずかしいから別々で会場に戻ろう』
「違う。君が口にすべき言葉は、ありがとう だ。
お前と百くんが非常階段に消えて行くのが見えたから、ずっと扉の前に立って人が近付かないように見張っててやったんだ。お礼の一つくらいあってもバチは当たらないと思うけど?」
『ありがとう。
そう、ずっと扉の前に…。
じゃあ、私と百の会話は聞こえてた?』
「いや、全く」
『なら、いい』
言って、万理から視線を外し 遠くを見つめる。そんな私を一瞥してから万理は小さく呟いた。
「…エリがその顔をする時は、何か面倒ごとを背負い込んでる時だ。
無茶だけはしてくれるなよ、頼むから」