第85章 かっけぇわ
眼鏡をかけ、目の前の大男に向き直る。
「信じらんねぇ…普通、あの場で話は終わりでしょ。お願いですから、ちったぁ空気読んで下さいよ」
「ごめん…。でも、どうしてもあのまま 立ち去るのは嫌だったから」
そんなにも申し訳なさそうな顔をするなら、追い掛けてなんて来なければ良いのに。
わざわざ俺を追って話をして、この人には一体どんなメリットがあるのだろう。そんな考えが頭に浮かんだが、それをすぐに打ち消した。
こういう人種は、損得勘定を原動力にはしていないと気付いたからだ。
小さな溜息を落とした俺に、龍之介は続けた。
「俺に話したい事は何もないって言ってたけど。あれ、嘘だよね。大和くん、俺に何か言いたい事があるんじゃない?
全部、聞くよ。それが、どんな言葉であっても」
「!!」
「大和くん?」
「……はは。あははっ!」
「ど、どうしたの?」
「いや、すんません。ちょっと、驚いちゃったんですよ。
だってあんたら…おんなじ事、言うんだもん」
あいつとの、最後の会話を思い出す。
【78章 1859ページ】
“ 大和、私に言いたい事があるでしょ ”
そう。エリは確かに、そう言ったのだ。そう言って、このどうしようもない気持ちを吐き出させてくれたんだ。
随分前に、俺と彼女は似ている。そう思っていた時期があった。どうして俺は、そんなふうに思ってしまっていたのだろう。
エリは、どうしたって、そっち側なのに。
あんたらは、いつも他人の事ばかりだ。
相手が傷付くくらいなら、その傷は自分が負った方がマシだと。
どうして、そんな考え方が出来るのだろう。
どうして…そんな優しい人間でいられるんだ。
あんたらは、本当に よく似てるよ。よく似てて、イイ奴だ。
そして、そんなあんたらは、お似合いだよ。
思わずこっちが、両手上げて諦めたくなっちまうくらいに。