第85章 かっけぇわ
これ以上、俺を情け無い気持ちにさせないでくれ。あっちに行って、もう顔を見せないでくれ。
「はは…平気ですって」
「本当に?」
「だから、大丈夫ですよ。べつに、何もありません」
「でも、顔色も悪いし辛そうだ。どこか、落ち着ける場所を探して休んだ方がいいよ」
どうして、どこにも行かない。
頼むから、俺の前から今すぐに消えてくれよ!
「…仮に、俺が平気じゃないとしても。あんたにはどうする事も出来ませんよ。
十さんに話す事なんて、なんもないですから」
「大和くん!」
俺は目の前の男から逃げるように、足を踏み出した。そっちが俺の前から消えてくれないなら、俺の方があんたの前から消えてやる。
…あんたら の、前から消えてやるよ。
さっき済ませたばかりなのに、俺はまたトイレへと戻って来た。
眼鏡を胸ポケットに突っ込んでから、洗面台の蛇口をひねり、冷たい水を顔に叩きつける。たったそれだけで、気分がほんの少しスッキリした。
「ハンカチは…」
どこへ入れてあっただろうか。左ポケット、右ポケットにもない。尻のポケットだったか?
俺が3箇所目のポケットに手を入れようとした、その時だった。
「はい」
「あぁ、サンキュ」
親切な彼が、俺に自分のハンカチを差し出してくれる。強過ぎない柔軟剤の、良い匂いがした。
「…って!嘘でしょ!何でまだ居るんですか!」
「えぇっ!?ご、ごめんね!?」