第85章 かっけぇわ
「見てこれ、全部食い放題なんだって!どれでも好きなだけ取っていいって、そーちゃん言ってた!」
そう言って、大皿にプリンを2つ、3つと乗せていく環。そのウキウキとした背中に語り掛ける。
『四葉さん、あんなふうに嬉しそうに私を呼んでは駄目ですよ。手を引いては、駄目…ですよ』
「……なんで。
前まで、んなこと言わなかったじゃん」
こちらを振り返る事なく、彼は答える。
『それは、ほら。ここにいる人達が、変に思うでしょう。どうして小鳥遊事務所のアイドルが、八乙女プロのスタッフと親しそうにしているんだって』
「関係ない。周りの奴らが、俺達のことどう思ったって。
俺が、あんたと仲良くしたいんだから、それでいいだろ?それともさ、あんたは…俺が近くに寄ってったら、迷惑なのかよ」
『そん…っ』
そんな事ない。
そう言おうとしたけれど、続きの言葉を飲み込んだ。
ここで拒絶した方が、良いのだろうか。いずれは言わなければならないこと。しかし、時と場所が悪いのもまた事実。
私が頭を悩ませていると、環がくるりとこちらを向いて、告げる。
「恋人、出来たんだろ」
『いやうん。まぁ、そうなんですけど。
って…、え?貴方、知って…』
「万ちゃんから聞いた」
彼が既に知り得ていたことにも驚いているが それ以上に、その事実を知ってなお 彼が冷静で落ち着き払っている事の方が驚きだ。