第85章 かっけぇわ
どんな理由があろうと、他事務所のアイドルに いつまでも膝を突かせているわけにはいかない。私は一織の隣にしゃがみ込む。
『楽。一織さんの代わりに、私が お股拭いてあげますよ。ほら、お股開いて』
「お気遣いは不要です。八乙女さんの お股がこんな事になってしまったのは、こちらの不注意なので。このお股は、私が責任を持って元通りにします」
「お前らは、ただお股って言いてぇだけだろ!」
「あははは!駄目だ、面白過ぎる!」
「ちょっと龍、笑い過ぎ。それに皆んなして、お股お股 連呼しないで。アイドルでしょう?」
腹を抱えて笑っていた龍之介だったが、ふと何かに気付いた様子で、途端に真顔になる。その視線は、正面扉の方に注がれていた。
『龍?』
「…ごめん、俺ちょっとトイレに行っ」
龍之介の言葉の途中で、私の腕を誰かがガシっと掴んだ。
「中崎さん!!」キラキラ
『っ、』
環だった。
こちらを見つめるその顔は、相変わらずキラキラしていて心底嬉しそうで。私は心臓がきゅっとなるのを必死に押し隠した。
「ちょっ、中崎さん!やばいって!大変だって!ちょっとこっち来て!」
『…何がヤバイのか分かりませんが、うちの看板アイドルのお股より優先した方が良い事なんですか?』
「余裕で!アレ見たら、がっくんのお股なんかどうでも良くなっから早く!」
「おいこら四葉!いま俺のお股より やべぇ状況なんかあるわけねぇだろ!」
ぐいぐいと、環に引っ張られる。楽の悲痛な叫びがどんどん遠くなった。
連れて行かれる途中で、大量のおしぼりを手にした陸とすれ違うも、環は意に返さぬ様子で私を誘うのだった。