第84章 その日が来る事を心待ちにしています
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ソファに座る龍之介は、素早い動作でこちらの腕を引く。私は後ろ向きに、彼の膝の間へと誘われた。
『わっ!』
「仕事はお預け。家に仕事を持ち込むなとは言わないけど…今からは、俺との時間」
言いながら、肩口にちゅっと口付けを落とされる。そこで喋られると、吐息が首にかかって くすぐったい。
『んっ』
背後から、包み込まれるように抱き締められる。彼の唇は、首筋や耳辺りをゆっくり滑るように移動した。
柔らかいその湿った感触に、呼応するように体が跳ねてしまう。
いつもなら、龍之介から愛撫をもらう際には、この両腕は彼の背に回している。しかし、この体勢では愛しい人を抱き締める事が叶わない。
行き場を失った両手は、龍之介の脚の上に置いて。スラックスをキュッと握り込んだ。
「いい 匂い」
『っ…は、石鹸の…匂いじゃない、かな』
「うん、でもそれだけじゃなくて。エリの甘い香りと、石鹸の匂いが混ざり合ってて…
ほんと、食べちゃたいくらい…良い匂い」
『っん、あぁっ!』
龍之介は、ぱくっと首筋を食む。唇を押し当てられるのとは全く違った感触に、嬌声を抑え切れない。
そして。彼からは見えていないはずなのに、私の洋服のボタンを器用に外していく。
お仕置きだ。なんて言いながら、その手付きは優しい。優しく肌を撫でられて。優しく胸の頂を摘まれて。
されるがまま、私は腰を揺らした。
「エリ…」
そして、優しく名を呼ばれる。
顎に手を掛けられて、顔を後ろに向けられる。きっと、この後は優しいキスをくれるのだろう。
しかし。私にも意地がある。
このまま、いいように流されてしまうのが悔しかった。
だから、顔を前方向に戻した。