第84章 その日が来る事を心待ちにしています
私はすかさず目の前の男の手を取った。そして嬉しさのあまり、ぶんぶんとハンドをシェイクする。
「…この反応も、予想外です」
『あ、すみません。つい、嬉しかったものですから』
今までは、恋人が出来たと伝えれば 天や楽と勘違いされたのだ。
しかし。ここに来て初めて、龍之介の名前が挙がったことで、ついつい体が勝手に動いてしまった。
「やはり、その理由のイチバンは、筋肉…」
『違います』
真剣な面持ちで、こちらへずずいと近付いて言い放ったナギ。自信ありげなところ申し訳ないが、キッパリと否定させてもらう。
「では、何が決め手だったのですか?」
『私を、1番近くで支えてくれたからでしょうか。時には優しく、時には厳しく、正しい方向へ手を引いてくれたから…』
「…僭越ながら言わせてもらっても?」
私が、どうぞ。と手を上向けて突き出すと、ナギは再び語り始める。
「アナタを側で支え、正しい道を共に歩んだというのなら…それは、TRIGGER全員に言える事なのではないですか?
ワタシには、十氏を選んだ理由にしては弱いように思えます」
『…意地悪な事を言いますね』
「Sorry.もしかするとワタシは、アナタに…誰も選んで欲しくなかったのかもしれません。いつまでも、ヤマトやタマキ、そして皆んなの…アナタでいて欲しかったのかもしれませんね」
『すみま』
「どうか、謝らないで。これは、ワタシのただのワガママなのですから。
アナタは、TRIGGERを愛していた。メンバー3人共を心から愛していた。それこそ、誰を選んだとしても不思議はないほどに。ただ、ほんの紙一重の差で、十氏を選んだ。
それは、間違いなく アナタの持つ権利なのだから」
ナギの言葉を、ゆっくりゆっくりと胸に落として咀嚼する。
そうなのだろうか。
確かに私は、天も楽も、心の底から大切に思っている。愛していると、言い換えても良い程に。
ほんの、紙一重…。言われてみれば、そうなのかもしれない。
「…名残惜しいですが、そろそろタイムリミットのようです」
『あぁ、本当ですね』
「楽しい時間は、あっという間です。次にお会い出来る時には、我がノースメイア自慢の茶葉を、アナタの為にご用意しておきましょう」
『楽しみにしておきます。
今日は有意義な時間を、ありがとうございました。ナギさん』
