第11章 本当に…ありがとう
「ねーねー、さっき撮影を見学してた金髪のイケメン 誰だろ?」
「やけに真剣な目で見つめてたよね。特にアンタを!」
「それ私も思ったー。気があるんじゃない?もしかしたら、一目惚れって奴かも!」
「あはは!まっさかー」
きゃはは と楽しげに廊下を歩いてくるモデル達。私は彼女達がすぐそこまで来ているタイミングを見計らって、廊下の角を勢い良く曲がる。
「キャっ、!」
手に持っていたアイスコーヒーを、少量 例のモデルの服にかける。勿論、わざとだ。
『あっ、…!すみません!大丈夫ですか?』
「大丈夫じゃないわよっ、やだー、コーヒーが…って、貴方は…」
彼女は汚れてしまった衣装を気にしながらも、私の顔を見上げて目を見開く。
『本当に申し訳ない…お召し物を汚してしまいましたね』
「あ!この人…さっき見学してたイケ…、」
彼女と共に歩いていたモデル仲間が、思わず口走る。……それにしても、金髪碧眼というのは やはり若い女の子には人気があるもよう。
『どうか、お詫びをさせて下さい…。あ、申し遅れました。私はこういう者でして』
私は彼女に名刺を渡す。すると他の2人のモデル仲間も、その名刺を覗き込むようにして確認する。
「や、八乙女、事務所…っ」
やはり…思った通り。彼女は大手芸能事務所の肩書に食いついた。読者モデルの多くは、事務所と本契約を結んでいない場合が多い。きっと彼女もそうなのだろう。
おそらくは…専属契約を結びたいと思っているはずだ。
「ちょ、ちょっと!やっば!」
「超大手じゃん…!」
「あ、あの…っ、もしかして さっき撮影見学されてたのって…例えば、スカウトとか…」
目を輝かせながら、こちらを見上げてくる彼女。私は出来る限り優しい笑顔を浮かべる。
『…ここでこうして ぶつかったのも、何かのご縁なのでしょうかね。
ちょうど、貴女にお話したい事があったんです。
今夜は、お時間ございますか?』