第11章 本当に…ありがとう
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『すみません。私、八乙女事務所の中崎春人と申します。
本日ここで行われる撮影の見学許可を、頂いたのですが…』
私は受付にて、名刺を差し出して告げた。
するとそれを受け取った女性が、すぐに答えをくれる。
「中崎様ですね。はい、たしかにお名前を頂戴しております。こちらを首からお下げになって5階へどうぞ」
私は見学許可証を受け取って、言われた通りに首から下げる。女性に軽くお辞儀をしてから エレベーターへと乗り込んだ。
現場へ到着すると、既に撮影は始まっていた。顔もスタイルも良い綺麗な女性が5.6人。順番にセットの前で写真を撮られている。
『………』
いた。目的の女性だ。栗色の巻き髪に、真っ赤な唇。そして、口元にあるホクロ。間違いない。
カメラマンの指示に従って、次々にポージングを変えている。年は…20代前半といったところか。
グラマラスな体系を強調した、フィットドレスに身を包んでいる。
絶対に、ミスは許されない。怪しまれないように近付いて、言質を取る。もしこの作戦が失敗すれば…確実に詰む。
龍之介の汚名をすすぐ事も出来なければ、百の力添えも無に帰すのだ。
なんとしても…どんな汚い手を使ってでも、彼女の口から、あの編集者と通じている事を吐かせてみせる。
私は頭の中で作戦を組み立てながら、撮影を見学する。じっと、あの女性を見つめる。実はこの行為も、作戦の布石である。
そして作戦が無事に組み上がった頃、ちょうど撮影も終わりの空気が漂ってくる。
その空気感を肌で感じた私は、スタジオを後にした。とりあえずは…アイスコーヒーを用意しなければ。