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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第2章 …なぁ。俺達、どこかで会ったか?




やはりノックの音には気付いていなかったようだ。


「…あんた、なんだ?
ここの人間じゃねえよな」


滴る汗をシャツの裾で拭いながら、彼はこちらを睨み付けた。


『…怪しい者じゃないですよ?少し貴方のダンスを見せて頂きたくて』

「あぁ、新しい振り付け師の人か?」

『まぁ、そんな所です』


どうやら、都合良く勘違いしてくれたらしい。しかし、彼は私の顔をじっと見つめて言い放った。


「………なぁ。俺達、どこかで会ったか?」


余談だが、私と彼は初対面ではない。

私の見た目が違い過ぎるせいで、彼の方は分かっていないようだが、もちろん私の方はバッチリ思えている。

最低最悪の八乙女楽との初対面を。


まぁその話は、後日改めて語るとしよう。



『…初対面ですよ?それにしても、八乙女さんは初対面の男でもナンパされるのですね』

「…ナンパじゃねえよ!自意識過剰だろ」


楽がレッスンルームに再び音楽を鳴らし、練習を再開させる。


『…………』


やはり、ダンスに関しては 彼らに助言する必要はあまり無い気がする。

洗練された動きだ。多少の荒が目立つのは、まだこのダンスが練習中のもので 完成されていないからだろう。


「…どうだ?」


一節 踊り終えた楽が、こちらを振り向いた。

私は、さきほどの彼のダンスを真似る。


『……開始から20秒ほどの、ここのところ…

上身は出来るだけ動かさず固定して、下半身だけを…
こう、捻るように動かしてみて下さい』


高い厚底靴はやはり違和感だが、ヒールに比べたら可愛いものだ。

すると、すぐに楽も同じように体を動かす。


「…なるほどな。 こうか」

『…概ね良いですが、まだ少し上半身がブレますね。
私が ここ、押さえてますんで。どうぞ やってみて下さい』


私は彼の両肩を掴んで、力を入れ固定する。

汗の匂いに混じって、彼のコロンと体臭が鼻腔をくすぐる。


『……けしからんぐらい良い匂いだな…』

「??
なんか言ったか?」

『いえ。何も』

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