第84章 その日が来る事を心待ちにしています
「ヤマトは、元気です」
『そうですか』
「はい。それに、もしそうでなくとも アナタが気に病む必要は微塵もありませんよ。
ハートブレイクは、イイ男になる為には乗り越えなくてはならない試練なのです。ヤマトは この壁を乗り越えて、立派な紳士にまた一歩、近付くことでしょう」
『そう、ですか』
もはや訊くまい。貴方は一体、何をどこまで知っているのか などと。
この悠々飄々した男の態度を前にすれば、いちいち気にしているこちらが小さく見えてしまう。
「ヤマトの様子は、アナタが “ 知りたかった事 ” ですね。
ここからは、アナタが “ 知るべき事 ” について話をしましょう」
『私が、知るべき事?』
「棗氏についてです。
彼は、ハルキに強い執着心を抱いています。いえ…強い愛情、と言ってもいい。どちらにせよ、彼はハルキの為ならば平気で人を傷付けるでしょう。本人に、その自覚があるのかはワタシには分かりませんが…
とにかく、アナタが過去、ハルキと繋がりを持っていた事実は隠すべきです」
『なるほど。隠し事は、得意です』
「決して、嗅ぎつけられないように。さきほども言いましたが、彼はとても嫉妬深く捻くれています。
もし、アナタがハルキと親しくしていた事が明るみに出てしまえば…」
『…出てしまえば?』
「Umm…意地悪されてしまいます」
『っぷ、あはは!意地悪ですか?急に可愛らしい単語が飛び出しましたね!
ふふ、すみません。本気で私を心配しての忠告だったのに笑ってしまって』
口元に手を当てたものの、笑いを堪えきれなかった私。そんな様子を見て、ナギは眉を下げて複雑そうに微笑むのであった。